訪問看護を立ち上げる!~管理者ナースの経験談を聞いてみよう~
近年、増加してきている訪問看護ステーションの開業。立ち上げにあたって何をしたらいいのか、行政手続きから地域連携など開業経験のある看護師にお話を伺いました。これから立ち上げを考えている方や経営者の方に是非参考にしていただきたい内容となっております。
訪問看護ステーションを立ち上げたきっかけ
私は今まで看護師として救急外来・病棟・集中治療室で勤務してきました。その中で新型コロナウイルス感染症の流行によって医療業界は激変し、すべての方々の生活も変化しました。そうして、地域行事は減り、地域のコミュニティは今までと違い閉鎖的になりました。結果的に、人々のコミュニティは衰退し、生活の質を低下させることになってしまいました。
その時私は、「人と会う機会が少なくなると、精神的な悪影響が生じる」「独居の方は慢性疾患の増悪につながる」と考えました。そこで訪問看護という手段を使って地域の人々の生活を支えていきたいと考えました。
思い返せば看護人生で迷ったとき、浮かんできたのは幼少期の日々でした。町の電気屋でありながら地域に貢献していた父親を思い出しました。それが、看護師としての最後を地域にささげることが自分の責務であると決心させたのです。そうして私は訪問看護ステーションを立ち上げるに至りました。
訪問看護ステーションの立ち上げに必要なこと
ステーションを立ち上げるために必要な人脈作り
訪問看護ステーションの立ち上げは地域との連携がかかせません。情報収集や相談がいつでもできるように、人脈づくりは大切です。
①市町村などの役所
訪問看護ステーションを開設するために必要な手続きなどについて相談し、開設を円滑に進められるようにしておきます。地域で事業を成功させるためには、データ収集が必須と考えます。医療・介護利用者を確認、市町村の医療構想の中に自分のステーションが浸透されるよう、地域の健康管理をしている部署と連携をはかっていきます。
②医師会・地域の看護学校
地域の医師会の先生と看護学校との連携を図るために定期的に面談を実施します。訪問看護で行うことができる内容を伝え、開業医の困っていることやタスクシフトはないか、地域で活躍できる看護師の育成について相談をします。
③社会福祉協議会
訪問介護ステーションやケアマネジャーを保有している団体であり、地域医療を支える重要なポジションです。連携をはかることで看護・介護の共同ができるため、地域医療の衰退を防ぐ手段として考えていきます。
④地域住民
訪問看護ステーションの訪問範囲である半径16キロ圏内の地域住民の方と繋がりを作っておきます。主に地域区長や町内会長など地域のコミュニティを支えている人との繋がりを作っておき、地域住民の特色や必要な医療・看護サービスについて情報収集を行います。
⑤訪問看護ステーション開設者(都市部・過疎地域)
SNSを利用して都市部・過疎地域の訪問看護ステーションの開設者と繋がりを持ち、地域性に応じた取り組みなどの情報を教えてもらいます。
情報収集
厚生労働省における地域医療構想のデータや市町村が掲示している介護・医療におけるデータを収集します。また、地域における生の声とデータに差異がないか検討し、訪問看護ステーションとしてどのようなことができるか考えていきます。
資金について
訪問看護ステーションにかかる固定費を計算し、必要な経費を考えることから始めます。その後に収益や支出のバランスを考え、2期目に黒字転化できるような事業計画の作成を行います。それを元に地元銀行へプレゼンテーションを行い、資金調達をします。
地域性を考えたコミュニティデザイン
私が暮らす地域は、一部で高齢化率が40%以上になります。国の統計データでも介護を受ける人が2025年にピークを迎え、2030年まで高い数値が持続したあと、徐々に低下されると予測されています。しかし、医療構想では医療機関のベッド数の減少や医療費の切迫で地域住民に大きな影響を与える状況になっています。
地域の医療機関にも役割変化があり、かつては退院後、療養型病院や介護施設に入所するということが多くみられましたが、近年は在宅医療の推進により在宅療養が増え、退院後、自宅で過ごすためにどのようにしていくべきか検討している状況です。
しかし、市町村が具体的にどのようなことをしていくかは明言されておらず、現行の制度や機関を利用すること、予防医療や慢性疾患が増悪をしないように呼びかけているのが現状です。危機的な状況から脱するための方策とは言えない部分があります。
今、注目したい!コミュニティナースの存在
島根県雲南市では、町と協力して展開されているコミュニティナースが活躍しています。コミュニティナースとは「特定の資格や職業を表すものではなく、地域コミュニティにおける看護のあり方を指す概念であるのが特徴です。
『人とつながり、まちを元気にする』コミュニティナースは、職業や資格ではなく実践のあり方であり、「コミュニティナーシング」という看護の実践からヒントを得たコンセプトです。地域の人の暮らしの身近な存在として『毎日の嬉しいや楽しい』を一緒につくり、『心と身体の健康と安心』を実現すること。また、その人ならではの専門性を活かしながら、地域の人や異なる専門性を持った人とともに中長期な視点で自由で多様なケアを実践します。実践の中身や方法はそれぞれの形があり、100人100通りの多様な形で社会にひろがり始めています。
私の地域においてもコミュティナースのニーズは高く、訪問看護にコミュティナースの考えを取り入れた活動ができるようになれば、地域・家庭における社会的問題を縮小化することができ、いままで家庭の負担となっていた入院費や施設入所費などを減らすことができるのではないかと考えます。
都市部及び地域には有効なコミュニケーションが必要であり、数値化・言語化・パターン化をする・できるコミュニティデザインを作って地域を変えていきたいと思います。
さいごに
「これからの医療は病院から在宅へ」と言われて何年も経っていますが、どのように地域医療へシフトしているか考える必要があります。それを踏まえ私は、在宅医療の中心が訪問看護になるような戦略を考えていきたいと思っています。
引用・参考文献
コミュニティナースポータルサイト「コミュニティナースとは」
「在宅看護指導士」は、在宅看護・訪問看護の視点に特化した知識とスキルを学び、人・組織・地域を育てる専門資格です。
訪問看護師であれば知っておきたい、緊急性の見極め方から家族支援、訪問看護事業の運営、リスク管理などを包括的に学習します。
訪問看護に魅せられている方、訪問看護に飛び込んでみたい方、管理を任されている方に、おすすめです。