訪問看護だからできる認知症のサポート
認知症の方と関わる姿勢
認知症の方と関わる中で、個性や想い、過去について会話をすることは看護をする上で大切な視点だと思います。出来ない・覚えていないことに着目してしまいがちですが、忘れないための努力や本人ができる役割などに目を向けてその人を知ることで、有する力を活かし尊厳を持った関わりにつながっていきます。その積み重ねが、本人も私たちを理解してくれる人だということを実感し、より良い関係でのサポートが可能になります。
在宅は日常生活や人生が詰まっている場所です。写真や想い出の品、生活習慣などに興味を持って関わり共感する姿勢を大切にしましょう。
日常生活を支えるための大切な存在
認知症の方は在宅でどのようなサポートを受けながら生活しているのでしょうか。ご家族との関わり、ケアマネとの連携について、実際の訪問の例をあげながらお話ししていきます。
認知症には、さまざまな原因や症状があります。症状の段階として初期、中期、後期の3段階に分けられ在宅においてはどの段階においても医療者のサポートが必要になってくることが多くなります。
日常生活を送る上で一番大きい存在はご家族だと思います。
本人のことを一番理解していることに加え、同居や近場にお住まいの場合であれば、生活リズムに合わせた頻回な関わりも可能であるためです。
認知症患者の日常生活を支えるために①連携を行いながらの訪問
事例①
80代男性
中等度の認知症(主訴:尿意、便意がわからない)
既往歴:胆管炎
妻と同居。息子夫婦は車で30分の場所に住んでおり、週1回状態を見に来ている。
朝のオムツ交換、2日に一回のシャワー介助、食事の準備、内服介助、週1回の散歩の付き添いなど日常生活の世話は妻が行いサポートは手厚い。
また、本人がデイサービスをはじめとする多くの介入を拒否している。月1回の訪問看護では体調確認と妻の介護負担を把握する程度で済んでいる。
事例のように必ずしもご家族の手厚いサポートがあるとは限らないこともあり、このような場合にはケアマネジャーと相談して必要なサービスの調整、介入頻度について相談して行くことになります。またご家族が遠方にいる場合には、心身の状態の変化がわかるような情報共有も必要となり、在宅での生活継続について主治医を交えて検討することもしばしばあります。
認知症患者の日常生活を支えるために②施設に入所するまで
事例②
80代女性
介入当初は軽度から中程度の認知症(物忘れ、不穏)
自宅に一人暮らし。車で1時間ほど離れたところに甥がいるが、仕事が忙しく月2回ほど様子を見にこられる程度。物忘れや不穏があり、内服管理もかろうじて自己管理しているが飲み忘れも時折ある状態。訪問看護では週1回の状態観察、内服管理、オンコールなどでの不穏の対応をしている。訪問介護は平日週4回で入浴、買い物、洗濯、部屋の掃除のサービスを受けて生活している。
食事はお惣菜などを買ってきてもらい食べていたが、認知機能の低下とともに食事量が減っていた。また、自室内での生活のみで活動量も少なく、腰痛が悪化してベッドで横になる時間が増えていた。食事を食べようとしなくなり、それに伴い排泄はベッド上でのオムツ内となる。デイサービスなど外出するようなサービスに対しては拒否がみられ、ケアマネジャーと連携して訪問介護を週6回に増やし、食事介助と離床を行ってもらうように対応した。日々の状態は共有ノートで介護ヘルパーと情報共有を行い、主治医と遠方の甥には必要に応じて状態を連絡していた。
訪問する中で、一人暮らしの寂しさと、自宅で生活したいという葛藤など多くの思いをお話しされていました。毎回訪問で誰が来たのかわからないと話されていましたが、毎回同じように繰り返し笑顔でお話しされていたのが印象的でした。
その後、夜間の不穏などでサービス回数を増やしても在宅での生活の継続は難しく、甥も本人の意向に沿うように在宅での生活をできる限り希望されていたが、遠方からのサポートに限界があり、施設へ入所となりました。
まとめ
認知症がありながら住み慣れた自宅で生活を続けることの大切さと難しさを改めて実感しました。要介護認定基準によりサービスの回数などには制限があるため、ご家族が近くいてサポートを受けることができる環境は、在宅生活を継続する上で非常に大切な時間です。
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訪問看護師であれば知っておきたい、緊急性の見極め方から家族支援、訪問看護事業の運営、リスク管理などを包括的に学習します。
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