杖の種類と選び方のポイントを徹底解説
杖には複数の種類があり、形状によって適応が異なります。身体の痛みや転倒リスクを軽減させるためにも、それぞれの特徴を理解し選定することが大切です。
本記事では、代表的な杖の種類と特徴、選ぶ際のポイントに加え、介護保険制度を利用した購入・レンタルの方法についても解説していきます。
T字杖(一本杖/ステッキ)
最も一般的な杖で、T字型のグリップと1本の支柱からなるシンプルな構造です。折りたたみ杖や伸縮式など種類も多く、携帯性に優れています。

長所
・軽量で持ち運びやすい
・折りたたみや長さ調整が可能で、外出に便利
・デザインや素材が豊富なため、杖に抵抗感がある高齢者にも取り入れやすい
短所
・バランスを得るには不十分で、ふらつきの予防効果は限定的
・手軽さゆえに、外出先に置き忘れやすい
適応となるケース
・軽度のふらつきはあるが、杖なしでの自立歩行が可能
・外出時にも杖を使用し安心感を得たい
4点杖(多点杖)
杖の先端が4点(または3点)に分かれており、接地面積を広げて安定性を高めたタイプです。一方で、操作には練習や慣れが必要であり、また種類が豊富なため選定を誤るとかえって不安定になることもあります。
多点杖は種類が豊富ですが、代表的なものは以下の3種類です。
・可動式4点杖
・スモールベース4点杖
・4点杖
可動式4点杖
スモールベースの支柱部分が20°前後可動する設計です。T字杖と、以下で紹介するスモールベース4点杖の中間的な存在です。

長所
・地面に対し斜めに杖をつくことができるため、不整地や坂道など屋外においては、安定性と操作性の両面で優れている
短所
・体重をかけるとグラつきやすいため操作には慣れが必要
・平地での安定性は通常のスモールベースに劣る
適応となるケース
・T字杖では不安なふらつきがある
・屋外(不整地)でも使用したい
スモールベース4点杖
操作性と安定性のバランスが良く、T字杖と、以下で紹介する4点杖の中間的な存在です。4点杖よりコンパクトに設計されています。

長所
・屋内・屋外ともに使用できる汎用性がある
短所
・慣れが必要
適応となるケース
・可動式では安定性に欠ける
・自宅内で中心に使う
・ゆっくり歩く
4点杖
主に自宅で歩行器の使用が困難な人、または片麻痺の人に用いられます。

長所
・支持基底面(地面の接地面積)が広く、安定性が高い
短所
・不整地や坂道などの屋外では使いにくく、屋内での使用が好ましい
・自宅など狭い空間では取り回しが難しい
・習得するには練習が必要であり、早歩きの人には不向き
適応となるケース
・スモールベースでは安定性に欠ける
・片麻痺がある
・ふらつきがかなり強く転倒リスクが高い
・自宅内で歩行器の使用が困難
・片手で支持できる腕力がある
ロフストランドクラッチ(前腕部支持型杖)
前腕に 「カフ」と呼ばれる輪状の支持具を装着し、支柱と前腕で体重を支えるため、握力や腕力、手首に頼らずに保持できるのが特徴です。

長所
・前腕で支えるため、握力や腕力が弱い人でも安定して保持できる
・T字杖や多点杖よりも安定性と機動性のバランスが良い
短所
・慣れるまで操作が難しく、使用方法の指導や練習が必要
・主に両手で使用するため、日常生活動作(ADL)が制限される
適応となるケース
・握力や腕力、手首に何らかの障害がある人(リウマチ・神経疾患など)
両手がふさがり、手すりの把持ができないため、在宅高齢者で適応になるケースは稀と言えます。
ロフストランドクラッチは、大きくU字型とO字型にわけられます。
U字型
着脱しやすい一方で、O字型と比べて安定性は劣ります。

O字型
U字型と比べて安定性は勝りますが、前腕がしっかり固定されているため転倒したときなどに外れにくいという欠点があります。

松葉杖
足をけがした若者がよく使用しているイメージがあるでしょうか。腋窩(わきの下)に支柱を当て、上肢で体重を支えることで、患肢への荷重を避けて歩行できるように設計されています。

長所
・患肢の完全免荷が可能
・短期間のリハビリや術後の移動手段として有効
短所
・杖が大きく日常生活には不向き
・長時間の使用は腋窩神経麻痺(松葉杖麻痺)や皮膚トラブルにつながりやすい
適応となるケース
・下肢に体重をかけられず、免荷が必要な人(骨折・術後など)
松葉杖の使用は上肢の筋力や体幹バランスが必要なため、高齢者で免荷を要する場合は車いすになるケースがほとんどです。
その他(ノルディックポール、サイドケイン)
ノルディックポール
円背姿勢を予防し、上肢の推進力を得て歩行能力をサポートします。
転倒予防よりも、運動増進としての役割が大きいでしょう。

サイドケイン
主に片麻痺に対しての歩行訓練など、リハビリ場面で使用します。4点杖へ移行する前の歩行介助量が多い場面で使用します。

杖の適応
どの杖が適応になるのか、支持性の低い順からまとめてみました。

片麻痺がなく、杖で不安定な場合は積極的に歩行車(シルバーカー)を使用しましょう。
杖の選び方
安価なものから高級品まで幅広く市販されていますが、検討すべきポイントは以下の3点です。
重さ
木製やカーボンなどがあり、実際に手に取って自分に合った重さを選びましょう。
持ち手(グリップ)の素材
・木製:デザインがおしゃれであり消耗が少ないです。ただし、ゴム製と比べて滑りやすくフィット感は劣ります。
・ゴム製:機能的な外観で木製より消耗しやすくなります。ただし、滑りにくくフィット感が良いため機能的です。
杖先(先端)の大きさ(支持基底面の広さ)
先端が大きいほど地面に接する面積が広くなり、その分安定性が高まります。
高さ
杖を適切な高さで使用するためには、
①杖を身体から15cm離してついた際の、肘の角度30°
②大転子
③手首の茎状突起
のいずれかに合わせましょう。
介護用品としてレンタル・購入できる杖の多くは、高さ調整(2.5cm刻みで数段階)が可能です。
そのほか、デザイン性や折り畳み式なども使用環境に応じて検討すると良いでしょう。
介護保険でレンタルできる杖と費用
介護保険を利用してレンタルができる杖とできない杖、またレンタルと購入時に必要な費用を見ていきましょう。
介護保険でレンタル対象・非対象(購入)となる杖
レンタル対象となる杖
・4点杖(多点杖)
・ロフストランドクラッチ(前腕支持杖)
購入となる杖
・T字杖(一本杖/ステッキ)
費用
レンタル対象杖
例として、4点杖を1割負担でレンタル・購入した場合の自己負担額の比較を紹介します。
・レンタル→月額152円
・購入→一括1,520円
この条件は、10か月を超えるとレンタルの合計費用が、購入費用を上回る計算になります。
一見、長期で使用する場合はレンタルよりも購入する方がお得に感じるかもしれませんが、レンタルと購入にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、下記で解説いたします。
購入となるT字杖
購入価格は数千円〜1万円程度と幅があります。
杖をレンタル・購入するメリットとデメリット
レンタル
メリット
・初期費用が抑えられる
・試用して合わなければ交換できる
・修理やメンテナンス対応がある
・不要になれば返却できる
デメリット
・長期使用では購入より割高になることがある
購入
メリット
・デザインや素材にこだわることができる
・長期使用ならレンタルより安くなる可能性がある
デメリット
・初期費用が大きい
・使用感が合わなくても返品できない
まとめ
いかがだったでしょうか。杖は種類や特徴を理解し、適切に選ぶことで安全性と自立を大きく高められます。また、理学療法士や福祉用具専門相談員に相談することも有効な手段です。ぜひ、明日からの患者さんやご家族への説明や支援に役立ててください。
参考
1) フランスベッド株式会社(編). 正しい杖(つえ)の使い方|歩行を安全にサポート. フランスベッド. 2021.
最終閲覧日:2025年8月27日
2) LIFULL介護編集部(編). 杖の使い方|種類や選び方、正しい使い方を解説. LIFULL介護. 2022.
最終閲覧日:2025年8月27日
在宅看護指導士認定試験
「在宅看護指導士」は、在宅看護・訪問看護の視点に特化した知識とスキルを学び、人・組織・地域を育てる専門資格です。
訪問看護師であれば知っておきたい、緊急性の見極め方から家族支援、訪問看護事業の運営、リスク管理などを包括的に学習します。
訪問看護に魅せられている方、訪問看護に飛び込んでみたい方、管理を任されている方に、おすすめです。
在宅看護指導士 公式テキスト


